顕微鏡技術=バイオイメージング、つまり、生物「観察」技術です。一方で、近年はオプトジェネティクスに代表される「生体操作」のための顕微鏡技術も発展しています。当室では生物が持つストレス応答反応である「熱ショック応答」(図1)と、赤外線を顕微鏡により集光加熱する技術(図2)の組み合わせによる「単一細胞遺伝子発現」技術(IR-LEGO: InfraRed Laser Evoked Gene Operator)を開発 [Ref. 1]し、様々な生物種への応用[Ref. 2-8]を行ってきました。
References (IR-LEGO技術の代表的な論文)
Y. Kamei et al. Nature Methods, 2009 (https://doi.org/10.1038/NMETH.1278) IR-LEGOの初報(IR-LEGOのシステム、線虫への応用)
T. Deguchi et al. Dev. Growth Differ. 2009 (https://doi.org/10.1111/j.1440-169X.2009.01135.x) IR-LEGOの応用(メダカ、ゼブラフィッシュ、シロイヌナズナ)
A. Shimada et al. Nature Communications, 2013 (https://doi.org/10.1038/ncomms2643) IR-LEGOの応用(メダカ)【東京大学・武田研】
T. Okuyama et al. Science, 2014 (https://doi.org/10.1126/science.1244724) IR-LEGOによる細胞Ablationへの利用(メダカTILLING変異体)【東京大学・竹内G、他】
A. Kawasumi-Kita et al. Dev. Growth Differ. 2015 (https://doi.org/10.1111/dgd.12241) IR-LEGOの応用(ツメガエル・イベリアトゲイモリ)【東北大学・田村研、他】
R. Nishihama et al. Plant Cell Physiol. 2016 (https://doi.org/10.1093/pcp/pcv102) IR-LEGOの応用(ゼニゴケ)【京都大学・河内研】
C.W Zeng et al. Open Biol. 2021 (https://doi.org/10.1098/rsob.200304) IR-LEGOによる細胞Ablationへの利用(ゼブラフィッシュ)【台湾大学・Tsai研】
T. Tomoi et al. Front. Plant Sci. 2023 (https://doi.org/10.3389/fpls.2023.1171531) 細胞サイズ等と照射条件の関連解析(シロイヌナズナ)【龍谷大学・別役研他】
Y. Morishita et al. Nature Communications 2023 (https://doi.org/10.1038/s41467-023-43902-y) 種を超えた発生組織ダイナミクスの原型とスケーリング(IR-LEGO技術を活用)【理研BDR・森下研、東北大、弘前大】
T. Tomoi et al. Commun. Biol. 2024 ヒメツリガネゴケでの応用と照射条件の関連解析(ヒメツリガネゴケ)【東京理科大学、宇都宮大学・玉田研、基礎生物学研究所】
熱ショック応答は図1のように、転写因子HSF1(heat shock factor 1)が温度感知と転写を誘導する鍵となる分子です。生物はその種ごとに棲息温度域が異なることから、HSF1の応答温度も異なると考えられます(図3)。HSF1の温度感知機構は現在不明ですが、様々な生物種のHSF1を調べることでHSF1分子の温度応答性に関して進化的に考察できるのではないかと考えています。他方、棲息温度の異なる異種のHSF1に入れ換えることで応答温度を変化させてIR-LEGO法の改良(簡便化)を行う技術開発も実施しています。(下記のref. 2, 3他)
近年、細胞内のミクロの世界において温度分布が存在することが報告されています。これはミクロの温度計測が可能な蛍光温度プローブ類が開発されたことによります(図4)。ここに当室の赤外線による局所加熱技術を応用することで、細胞内・細胞間における時間・空間的な温度の広がりを高速に温度イメージングすることができます。この技術により細胞内の構造や物質の熱的な物性を解析し、生物がどのように温度を利用し、また、適応しているのかにも迫りたいと思っています(下記のref. 6, 11他) 。また、生命の熱科学の研究者を中心にBiothermology WSで情報交換・共同研究活動もしています。
ライブイメージングにおいて、生体物質の屈折率の不均一性は光の進行が理想的光学経路からの逸脱(屈折・散乱など)の原因となっており、像の劣化に繋がります。この現象はイメージング(画像取得)だけでなく、光による生体操作であるIR-LEGO法においても同様に作用し、深部細胞を標的とした場合の集光点の広がりをもたらします。つまり、単一細胞レベルでの遺伝子発現誘導制御を困難にしています。そこで、生体内部(3D)の光の進行状態(波面)を観測し、目的の像を捉えられるように入射する波面をあらかじめ制御してより良い像を取得する方法(補償光学)を開発しています(図6:学術変革領域「散乱透視学」HPより引用)。観察系だけでなく、操作系(照射)においても波面制御によって改善する方法の開発を進めています。
当室では、モデル生物としてメダカを主に使っています。分子遺伝学的な手法を駆使することが可能で、また、ゲノム等情報も充実しておりモデル生物として様々な研究に活用できます。胚の透明性はイメージングにも最適です(図7)。大型スペクトログラフを使ってメダカの色覚研究や、メダカ変異体(Tilling、ゲノム編集等)の活用など、多くの共同研究者と様々な分野の研究を進めています。(下記のref.のほとんど)
References (共同研究成果の例)
Y. Taniguchi et al. Genome Biology, 2006 (https://doi.org/10.1186/gb-2006-7-12-r116) メダカの変異体作製法(TILLING法)【京都大学・武田研、他】
S. Ansai et al. Dev. Growth Differ. 2012 (https://doi.org/10.1111/j.1440-169X.2012.01357.x ) メダカのゲノム編集法(Zink Finger Nuclase法)【京都大学・木下研、他】
T. Kitano et al. Mol. Reprod. Dev. 2012 (https://doi.org/10.1002/mrd.22080) メダカの高温環境における生殖腺分化(TILLING変異体)【熊本大学・北野研】
Y. Nagao et al. PloS Genetics, 2014 (https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1004246) メダカ色素細胞の分化(TILLING変異体)【名古屋大学・橋本G、他】
N. Homma et al. BMC Genetics.. 2017 (https://doi.org/10.1186/s12863-017-0477-7) メダカ赤オプシンの解析(KOメダカのOLS利用)【日本女子大学・深町研、他】
M. Nakano et al. PLoS One, 2017 (https://doi.org/10.1371/journal.pone.0172344) 蛍光タンパク質温度プローブの開発(メダカへの応用)【大阪大学・永井研、他】
T. Shimmura et al. Nature Communications, 2017 (https://doi.org/10.1038/s41467-017-00432-8) メダカの色覚と季節性(KOメダカ)【基生研・吉村研、他」
T. Nakayama et al. Nature Ecology and Evolustion, 2019 (https://doi.org/10.1038/s41559-019-0866-6) メダカのストレス応答と季節性【名古屋大学・吉村研、他】
S. Yokoi et al. PNAS, 2020 (https://doi.org/10.1073/pnas.1921446117) メダカ配偶者選別におけるOxytocinの役割(TILLING変異体)【北海道大学・横井G、他】
Y. Nishiike et al. Current Biology, 2021 (https://doi.org/10.1016/j.cub.2021.01.089) メダカ生殖行動におけるホルモン受容体の役割(TILLING変異体)【東京大学・大久保研、他】
K. Lu et al. Nano Letters, 2022 (https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.2c00608) 蛍光タンパク質温度プローブ開発と細胞内熱伝達の高速イメージング【大阪大・永井研】
M. Kosugi et al. Nature Communications, 2023 (https://www.nature.com/articles/s41467-023-36245-1) 南極の藻類が赤外線で光合成する仕組みを解明【自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター・小杉G、他】
Y. Ogino et al. Nature Communications, 2023 (https://www.nature.com/articles/s41467-023-37026-6) アンドロゲン受容体の重複進化による、”形と繁殖行動”の多様化をメダカを使って解析【九州大・荻野研、他】
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2025年4月撮影